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『オール1の落ちこぼれ、教師になる』

オール1の落ちこぼれ、教師になる (角川文庫)オール1の落ちこぼれ、教師になる (角川文庫)
(2009/07/25)
宮本 延春

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 評価するのが非常に難しい本です。
 もちろんオール1から難関の名古屋大学理学部へ進学した宮本氏の実績に口を差し挟むものではありません。
 しかし、この本への称賛の仕方は本当に妥当なものなのでしょうか。
 宮本氏が刻苦の人であったことは間違いないでしょう。本の記述を疑う要素はありません。しかし、宮本氏にはそれに代替しうる幸運もあったはずです。普通の人が奮起して勉強を始めても、定時制高校のパンフレットを探してきてくれる彼女、自分の家の一室まで課してくれるような親切な先生、学校で実験助手の仕事を見つけられるかどうかどうか…、これらは話が別になってくると思うのです。宮本氏と拮抗する実力を持ちながら、運がわずかに足りなかったばかりに日の目を浴びなかったような人もたくさんいるはずなのです。事実、同書ではアインシュタイン・ロマンについて「奇跡としか言いようがない出来事」(p16)としています。この記述は自分自身も運がよかったと暗に認めていると考えていいのではいでしょうか。世間の評価や称賛に対して、本人は非常に謙虚であるように思われます。
 それと宮本氏の場合は、少林寺の有段者であり、子供の頃は横溝正史に親しむ、あるいは本文にも記述があるのですが「難しい知恵の輪でも簡単に外す」(p84)程の人です。「やらないからできない」だけで、潜在力は相当高い人物であるということには強く注意して読む必要があります。
 したがって本書は宮本氏の人となりを知るにあたっては良著と思われますが、それ以上を期待するのは危険であり、むしろ有害です。「○○すれば必ず人生が開ける」などと説いて寓話化するのは、アヤシゲな新興宗教並みに危険です。人生は容易に因果律的に語ることができるものなのでしょうか。いわんや説教ドラマなんかで取り上げて説教を増幅しようなんて愚の骨頂です。

 それともっと根本的なことを言うと、宮本氏のような潜在力の高い人物が公教育の場でオール1のまま見放されてしまう現状こそが本当に問題なのではないでしょうか。彼の人生を美談として終わらせてしまうのは、事の本質を見誤ります。本来は彼のような回り道を強いられる人物が一人でも少なくなるよう学校教育の環境を見直すこと、彼のような人物がやり直したいと思ったときに、公的なレベルで応援するために返還不要の奨学金の拡充などの方向へ議論が行くべきですが、このような美談が隠れ蓑にされているように思えてなりません。宮本氏を人生の鑑とするならそれでよし。しかし、彼がそれほどに優秀でしかも努力家だというなら、そういった逸材の潜在力が義務教育で開花することがなかったということです。私たちが手放しで感動して「めでたしめでたし」と終わっていい話なのでしょうか。

  話は変わるのですが、この本は7章を中心として見ることで、全く別の見方をすることができます。この本の言葉を借りれば「難しい知恵の輪を簡単に解くことができる」ほどの切れ者の宮本氏でさえ、勉強法は全くの王道、言いかえれば平凡そのものであるということです。特に数学と物理に関してはさすがにいいことが書いてあります。数分間はとにかく何でもいいから紙に書いて「もがいて」みる、計算力を身につける、一つの参考書を丹念に仕上げていく…、どれも王道中の王道ばかりです。もっといえば、宮本氏ほどの人物でさえ、勉強法を確立できないと勉強には苦労するようです。こういう本が出ているくらいですから、あたりまえですね。それは英語のところを見れば自分自身で失敗談と書いているくらいですから、間違いないでしょう。
 別に『たのしい英文法』の例文を片っ端から暗唱すればいいじゃんと…。(ボソッ…)
たのしい英文法たのしい英文法
(1993/05)
林野 滋樹

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 勉強法やハウツーに属することに関しては、もっと明確に意識されてよいと思います。従って、『オール1の落ちこぼれ、教師になる』は1章~6章を背景説明として一つの章にまとめて、残りの全ページで数学と物理の勉強法で充当した方が百億倍くらいは役に立つ本になったように思われます。

 宮本氏の場合は「極端に悪い環境の中で」「潜在力のある人」の勉強の話でした。逆に、この国のマジョリティをなすと思われる「人並みの環境で」「人並みの能力の人間」の勉強の場合、むしろこの本を読んでいただきたいと思います。

語りかける中学数学語りかける中学数学
(2005/08)
高橋 一雄

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 この本の著者は宮本氏のような意味での苦労人ではありません。けた外れに不遇だった宮本氏の境遇に比べて、『語りかける中学数学』の著者の高橋一雄氏のエピソードには、多くの人が身近な思い出として共感できるのではないでしょうか。この本の「ひとりごと」だけでも読んでみてください。人並みの環境の人並みの凡人には、こちらの方が響くものがあるように思います。著者の学習体験が数学の参考書という形で還元されていることも評価できます。

 いずれにせよ、この本を読んでただ感動して終わるだけなら、この本を手にするのはかえって有害であるように思われます。すでに述べましたが、ただの説教列伝に堕する危険性があるからです。この本は感動を読んで消費して終わる人ではなく、目的、条件の如何を問わず自分で思うところがあり、それを自分なりに日々実践している人のための本と思われます。
 最後に、彼の業績を称賛する声は未だ日本人の中に勤勉の美徳があることの表れでもあると言えますが、同じ物理学の徒として並べるとすれば、日本で言うところの寺子屋しか通っていないファラデーや、官憲の目をかいくぐって移動教室でこっそり勉強していたキュリー夫人のような人物の人生も学問的業績も、未だよく理解されていないことの表れであるとも言えます。アマゾンのレビュアーの中でこれらの伝記を読んだ人は何人いることか…。
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